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思いつくこと、思い出すこと、思いあぐねていること。それから時どきワイヤーワーク。

名付け三題 続き

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その2 “Wired"

 

私は40代の一時期、職業が作家でした。文章ではなくモノ作りです。

あえて職業としたのは、自称ではなく社会に認められていたと思うからです。

 

職業にする前は、自称作家です。いわゆるアマチュアですね。

 

当時、私は薬局を営んでいました。

手遊びで始めたアイヤーワーク(針金細工)が意外に面白く、

店の隅を作業場にしてあれもこれも作って悦に入っていました。

 

そのうち出来上がったものが溢れてきて、

商品棚にディスプレーとして置かれるようになってきました。

 

ほどなくして、来店されたお客さまから

「これは売り物ですか?」と言われるようになり、その度に

「趣味で作っているだけなので、売り物ではありません」と応えていました。

 

今考えれば、とても売り物のレベルではなかったはずなのに、

お客さまの“お愛想”を真に受けて、

だんだんと「売ってもいいな・・・」と調子に乗り始めてしまったのでした。

 

工具も増えて、見ようによっては工房のようでもあります。

そうなると「工房名」を付けたくなるのが人情というものです。

何かカッコイイ名前・・・と色々考えたのですが、なかなか決まりません。

 

やっていることは俗に言う針金細工です。

針金→ワイヤー(wire)と考えながら、その先が思い浮かばなかったとき、

ふと目に入ったレコードが『WIRED』だったのです。

私は洋楽好きで、普段はCDを聞くことが多かったのですが、

「今日はレコードでも・・・」と思って棚のレコードをめくっていたときに、

このアルバムが目に飛び込んで来たのでした。

『WIRED』とは、1976年5月にリリースされた、

ジェフ・ベック(Jeff Beck)のアルバムです。

最後に針を落としたのがいつのことやらと言うぐらい、棚に眠ったままでした。

見た瞬間、「これで行こう」と決意しました。

 

何日かして、友人が訪ねてきたので、この話をしたところ

アメリカに『WIRED』という雑誌があるんだけど、

インターネット関係のすっごくカッコイイ雑誌だよ」と教えてくれました。

 

当時は、自宅にネットの環境を備えている人はまだまだ少なく、

そんな雑誌があることなど知らなかったのですが、

wiredの意味に「結びついた」とか「結びつけた」という意味があることを教えてもらい、

なおさらこの名前で行こうと思ったものです。

 

私が調べた辞書には「wiredとは一般的に“有線の”という意味である」としか

書かれていませんでした。

全くその通りなのですが、ワクワクする意味ではありません。

ですので「結びつける」の意味を知り、これはピッタリだと思ったものです。

 

針金をつないで作品を作るだけでなく、

作ったものが別の人とのつながりをもたらしてくれることをイメージでき、

すごく嬉しくなったことを思い出します。

1997年のことです。

 

後に、2000年6月、腕時計ブランドとして『WIRED』が誕生しました。

世界のSEIKOから生まれた『WIRED』はSEIKOウォッチの中では

どちらかと言うと若者向けのアバンギャルドデザインが主軸のようでした。

 

「ブランド真似された!」と内心ムカついたのですが、時計好きの私は、それはそれとして、速攻一本購入しました。

随分前に電池は切れたままですが、今も手元に残してあります。

その後、プロとなってからも、Wiredで通しました。

 

その3 “garden JUNK"

ワイヤーワーク の工房を「Wired」と名付けたいきさつを書きましたが、

実は、最初に付けた名前は「Wired」ではなく別の名前でした。

 

当時は家具や雑貨が大好きで、中でも椅子(チェアー)のデザインに

大変な興味がありました。

どちらかと言うと未来的なデザインより温もりが感じられるものに惹かれ、

何度も洋書を見返したものです。

いわゆるアンティークではありませんが、

使い込んで塗装が剥げかかっているような古いものにも

魅力を感じるものがたくさんありました。

 

「american JUNK」という洋書には、

そんな家具や雑貨や日用品が溢れていて、本当によく眺めていたものです。

アンティークと言うとヨーロッパの王侯貴族をイメージしますが、

「american JUNK」に登場するモノには洗練さではなく

生活に根ざしたおおらかさがありました。

人によってはただのガラクタにしか見えないようなものばかりの写真集ですが、

シリーズ化されていたようです。

 

その中に「garden JUNK」という一冊がありました。私は大の植物好きです。

私が身近にある針金を使ってモノづくりを始めた理由はいくつかあるのですが、

初めて作ったモノは小さなハンギング・バスケットでした。

植物が好きで、それをどう飾るかを考えていていたとき、

針金でその器を作ってみたら面白いと思ったのです。

普通の針金は簡単に手に入りますし、なにより安価です。

言ってみれば「junk」な素材です。

 

そんなこんなで、ブランドの名前は必然と言うか、

そのままズバリ「garden JUNK」としました。

工房の開設前で、モノづくりを始めたばかりなのですが、

カッコウから入る」と言う悪い癖があり、ブランド名など必要ないのに、

とにかくそう決めたのでした。

夢中で作っていたので、作品(?)はどんどん増えていました。

その横にそっと「garden JUNK」と書いたプレートを置いたのです。

 

それがなぜ「Wired」になったかです。理由はある人の一言でした。

その一言で、こりゃあダメだと悟ったのでした。

 

彼女はこう言ったのです。

 「この “ガーデン・じゅんこ”  って何ですか?」