東京まで77.7マイル

思いつくこと、思い出すこと、思いあぐねていること。それから時どきワイヤーワーク。

「想定外」は「想定内」か

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想定外という言葉が目立って聞かれるようになったのは、いつの頃からでしょう。

 

普通、想定外とは甚大な被害をもたらすような、自然の猛威を指して使われます。

確かにそうなのですが、東日本大震災における原発の事故に関しては、

人間の無力さを示すと言うよりも、関係者の責任逃れを図るために

想定外が多用されているようにも聞こえました。

まるで想定外のひとことが免罪符のようでした。

「想定外」でなく「想定する能力がなかった」のではと感じたのは

私だけでしょうか?

 

最近は、さらにいろいろなケースで「想定外」が使われるようになりました。

使いかってが良い言葉なのかもしれません。

ある日あるとき、スポットライトを浴びた「ことば」が

急に広く使われるようになることはよくあることなので、

それ自体は不思議ではありません。

 

しかし、「想定外」という言葉にはどこか違和感を覚えることも事実です。

「想定外」ということは、当然、想定していたもの(こと)があるわけで、

それ以外が「想定外」になるわけです。

想定していたもの(こと)の範囲で収まることは「想定内」となり、

「想定内」の中でも自分の希望に近ければ「思い通り」となるわけです。

さらに希望を超えれば「望外」ですが、これも「想定外」です。

 

ややこしいですね。

 

人のことをあげつらうのは本意ではないので、自分の身に置き換えてみます。

 

正直「想定通り」というか、「思い通り」に物事が進むことは稀です。

それに比べて「想定内」に収まらないことはよく起きます。

よく起きるというよりも、「想定外」のことばかりが続いているようです。

 

となると、本来滅多に起きることがない事を指す「想定外」という言葉が、

私の場合は事実上逆転していて本来的には「想定外」と言うべきことを

「想定外」と言えなくなるのではないか、とも言えます。

 

あるいは、

最初に書いたように「想定する能力」が欠けていると言う事なのでしょうか?

 

さらに考えて、

滅多に起きないはずのことが自分には起きるのだということを

すでに自分が知っているのだとすれば、

起きることは全て「想定内」ということになるのでしょうか。

 

まあ、こんなしょうもないないことを書いていれば、

読者がひとりもいなくなることは、私にも想定できますが・・・。

 

話がつまらなくなってしまったので、明るく終りたいと思います。

なんだかんだ言っても「想定外だ!」と思わず叫びなることもありますよね!

 

「想定外」 その1

企業お抱えのアーティストとしてサラリーマンになった私に、

太っ腹の会社は海外視察を用意してくれました。

 

行き先は、フィリピン政府機関 国際貿易展示会局(CITEM)が主催する

 「Manila FAME 国際家具・雑貨展」です。

このイベントは東南アジア最大級規模のトレーディングショーで、

フィリピン国内外のメーカーやブランド会社、アーティストらが集結し、

様々な商品や素材が展示されるのです。

期間は3日間です。

 

外国から多くのバイヤーが買い付けに集まるのですが、

「いろいろなモノを見て、商品開発のアイディアにしなさい」ということで、

私も帯同させていただきました。

 

時間を少し戻しますが、最初の想定外は出発前の成田空港で起きました。

出張のメンバーは4人。うち一人は東京からなので別便で集合です。

 

地元からの3人は車で成田に向かうのですが、

私が役員を迎えに行って、その後もう一人を乗せて行くという段取りでした。

役員はマンション住まいで、その駐車場はマンションの一階にありました。

2階から住居という造りです。

 

役員はベンツのワゴンに乗っていました。

迎えに行くと、こっちの車で行こうというので、

私の車をベンツと入れ替え出発したのでした。

 

無事成田に着き、もうすぐ搭乗という時、その役員に電話が入りました。

少しやり取りをしていたかと思ったら、

「ちょっと電話代わって」と携帯を渡されました。

電話の主は役員が住むマンションの管理人で

「(私の)車をすぐ動かしてくれ」というのです。

実は、マンションの地下は広い駐車場だったのでした。

そして、1階の駐車場部分がローターで動くことで、

地下に停めている車が地上に出てくる仕組みだったのですね。

 

ところが私の車がじゃまで、下に停めた人から

「車が出せない」とクレームが出ているというのでした。

当時私が乗っていた車は4駈で、ルーフにキャリアーが付いていました。

どうやらそれが天井につっかえてローターが回らないというのです。

 

成田にいるといっても聞いてくれません。

「ガラスを割ろうが、傷が付こうが一切文句は言わないので、

 駐車場から引きずりだしてくれ」と言っても

「それは出来ない。とにかく動かしてくれ」の一点張りです。

 

搭乗まであと10分でした。

俺だけ戻るのかと半ば覚悟を決めたとき、

ひとりが「スペアキーがあるんじゃない?」と冷静な声・・・。

そうなのです。言われてみれば何てことのない状況でした。

 

ギリギリ地元の友だちに頼んで解決したのでした。

焦るとこんなことですら思いつかないものなのです。

 

「想定外」 その2

無事マニラ空港に着き、入国審査のための列に並んでいたときのことです。

 

2人縦列で少しずつ前に進んでいましたが、

言いようのない嫌な感じがして、同行の男性社員にやたらと話しかけていました。

よく言う第六感だったのかもしれません。

その社員とは初対面で、アクセサリーのデザイナーでした。

真面目な人だったのでしょう、シンプルで好感の持てる格好をしていました。

私はバックスキンのタッセル(ポロ)に、白のコットンパンツ。

プレーンな白のシャツ(Y's)に紺色タオル地のジャケット(BIGI)でした。

どこにも柄は入っていません。

とてもシンプルだったと思います。

 

なぜ初対面にも関わらず一生懸命話しかけていたかというと、

私は見えない何者かに対して、

「こんなに真面目そうな人(同行の社員)と一緒に、

 ビジネスで入国しようとしています。遊びじゃなくて、ビジネスですよ!」

ということを無意識にアピールしていたのでした。

 

どんどん進み、いよいよ自分の番です。

入国審査官は体格の良い女性でした。

 

カウンターに右手で持ったパスポートを置いた瞬間、

視界の外から忽然と現れた警備員のごっつい手に手首を押さえつけられました。

右手は腰の拳銃の辺りで、宙に浮いています。

パスポートは女性に取られ、もう1人現れたガタイの良い警備員とともに、

私はゲートをくぐった先の小部屋に連れて行かれたのでした。

 

全てすりガラスで囲まれた部屋では、全て脱げと命じられ(ジェスチャーです)、

最後のブリーフに手をかけたとき、ようやくストップがかかりました。

 

あろうことか、私はジャパニーズ・ヤクザと思われたようでした。

 

解放された後、カウンターの女性のところに戻ると、

私のパスポートにイタズラ書きをしていましたが、抗議はできませんでした。

なぜジャパニーズ・ヤクザと思われたのかの本当の理由はわかりませんが、

多分「髭」のせいだったのでしょう。

生まれてこの方、顔立ちや目付きがキツイと言われた事は一度もなく、

それ以外考えられません。

 

と、ここまで書いて、ふと戦場カメラマンの渡辺陽一さんを思い出しました。

慌ててネットで画像検索すると「こんな感じの髭だった!」とぴったりです。

当時の私は渡辺さんのような髭を生やしていたのです。

それにしても、

渡辺さんからは全くジャパニーズ・ヤクザな感じは微塵も感じられません。

 

う~ん。

 

一連の出来事は、すりガラスのおかげでほぼ丸見えだったようですが、

同行者はずっと笑っていたそうです。

「大使館に電話してくれ」とは言わないけれど、笑わなくてもねえ・・・。

拳銃チラチラですよ。

 

「想定外」 その3

チェックインしたのは素晴らしいホテルでした。

 

メンバーは男女2人ずつだったので、男部屋と女部屋とに別れたのですが、

何のためなのか二つの部屋を挟んだ壁にドアがあり、

廊下に出なくても行き来ができる構造でした。

 

翌朝、FAMEに行くため少し早起きをして男部屋で打ち合わせをした後、

私が廊下に出た瞬間のことです。

ほぼ同時に合い向かいの部屋から、日本人の女性が廊下に出てきて、

パッと目が会ったのでした。

私のすぐ後ろを女性役員が続いて部屋を出ようとしていた、

まさにそのタイミングです。

 

その日本人女性とは、実家を建て替えたときにお世話になった

ハウジングメーカーのデザイナーでした。

何度も打ち合わせをしているのですぐわかりましたが、

彼女も仕事でFAMEに来ていたのでしょう。

 

お互いに小さく「あっ」と言ったきり、

その日本女性は「私は何も見ませんでしたよ」と言わんばかりに

部屋に戻ってしまったのです。

彼女の目には「中年の男女がフィリピンで不倫をしている現場を見てしまった。

けれど私は誰にも言いませんから」と言う、勘違いな決意が見て取れました。

 

こんな場合、勝手にそう思い込んでる相手に、

わざわざノックをして出てきてもらって説明することは

返って空空しいものです。

 

結局、その後一度もお会いしていないので、

そう思われたままなのはまあどうでもいいのですが、

これって、

ものすごく、ものすごく低い確率でしか起こり得ないことだと思いませんか?

1日で三つの「想定外」です。

 

それにしても、何と「想定外」の多い人生だこと・・・。