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思いつくこと、思い出すこと、思いあぐねていること。それから時どきワイヤーワーク。

なんちゃってガーデナー vs 園芸爺さん

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薬局時代の話です。

 

ある時、花屋に務めていた友達に

ミニバラの苗を20鉢くらいもらったことがありました。

うどんこ病か何かが出てしまったようで、内緒で持ってきてくれたのです。

基本、こんな場合は商品として出せないので、廃棄処分にするようです。

 

当時、私がやっていた薬局の店頭はティッシュペーパーやトイレットペーパー、

さらには洗剤類の定番置場から植物置場になりつつあった頃で、

お客様からは「花も売るんですか?」と言われていました。

もちろん販売目的ではなく飾ってあるだけでしたが、

当時の写真をみると花屋にしか見えない店先になっていたのです。

 

植物を育てることに夢中になっていた私は、

「捨てられるのは可哀想だから」という理由で、

ひと苗ずつテラコッタ鉢に植え替え、

それを飾る置き台まで自作して悦に入ってました。

 

ある日、店先に並べてあるミニバラを近所のお爺ちゃんが見ていたので、

「キレイにしてるね」とでも言ってくれるのかと思い、店頭に出たのでした。

買い物に来たのではなく散歩の途中という感じです。

 

お爺ちゃんの家は店から100メートル足らずのところにあって、

いわゆる鉄筋コンクリート造りの豪邸でした。

高い塀の上からうかがえる庭には、よく手入れが行き届いた植木の他に、

ものすごい数の盆栽があり、2階のバルコニーも植木だらけでした。

すでに退職されていたようでしたが、悠々自適を絵に描いたような生活ぶりです。

 

褒めてくれるのかと思っていた私は、

驚くべきことに、全く逆のことを言われてしまったのです。

 

ある赤いバラを指差して

「この赤は本当の色じゃないね。これはただ咲いてるだけだ・・・」

ホントウの色?ウソの色?そんなのがあるのか?

 

いきなりだったので、顔には出せないけれどムカッときたところへすかさず

「消毒はどうしてるの?」とたたみ込んできました。

 

ここで反撃しないとやられっぱなしなので

「酢をやってます」と答えた。

マツだかツツジだか知らないけれど、庭いじりの好きな盆栽爺さんなんかに

負けるわけにはいきません。

実は何日か前にガーデン雑誌で読んだ、とある記事を思いだしたのです。

従来からある消毒薬の弊害に比べてなんちゃらかんちゃらとあったので、

「お爺ちゃん、酢なんて知らないでしょう!」みたいな言い方で返したのです。

 

お爺ちゃんの反応は、素早く静かでした。

「酢もいいけど、新芽と枝では希釈倍率を変えてあげないと行けないから、

 大変だろ?」

 

私の付け焼き刃は脆くも崩れて返事もできません。

雑誌にはそんなことまで書いてなかったし、

正直なところ恥ずかしくなってきました。

脱帽です。レベルが違ったのです。

 

なんちゃってガーデナーが何も言い返せないでいると、

「後で植え替えてやるから」と言って帰ってしまいました。

ものの10分もしないで、今度は車で乗り付け、

全てのミニバラの鉢をトランクに積み、持って行ってしまいました。

あっという間です。

 

何日かして見事に植え替えられたミニバラが届いたのですが、

「水やりしてみたらちょっと気になったから、

 土も全部入れ替えといたよ」と言われ、

「これも使いなさい」と、

使いかけだったけど石灰硫黄合剤のボトルをいただきました。

 

いま思うと、へっぽこガーデナーを見かねて声をかけてくれたのでしょうけれど、

植物を愛おしむ気持ちだけは伝わっていたのかなと思っています。

 

それにしても、ここまで出来る人は滅多にいません。

うんちくだけの人はごまんといますが、頼まれてもいないアドバイスをするなら、

このぐらいの覚悟を持ってしなさいという教えだったのでしょうか。

お爺ちゃんはあなどれません。