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思いつくこと、思い出すこと、思いあぐねていること。それから時どきワイヤーワーク。

ハンドメイドの大量生産(LL)

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例によって、職の沿革表です。

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今回は自営の作家時代を経て、企業お抱えの作家(職)となった頃の話です。

 

その企業は郊外型の雑貨セレクトショップで、

当時20店舗近くを展開していました。

現在は更に店舗数を拡大し、売上も80億を超えているようです。

 

自営の作家時代といっても店(薬局)をやりながらだったので、

作家としての収入は微々たるものでした。

ワイヤークラフト の教室も開設しましたが、

半分シャレで始めたようなものだったので、

わずかな月謝をいただくばかりで収益にはなりません。

思いがけず多くの方に通っていただいたのですが、

「習い事で食べていくのは相当に難しいだろうな」と感じていました。

改善していくことは可能だったかもしれませんが、

途中から教室の仕組みを変えるのは難しいものです。

教室の在り方を十分イメージしないで開設した結果ですね。

 

ゴルフのプロもツアーで稼ぐ人たちばかりではなく、

レッスンで食べていく人たちがいます。

 

同じように、作家の目指し方も作品を売って収入を得ていくのか、

あるいは教室の運営でやっていくのかで方向性が変わるでしょう。

結果として、そのどちらもやっていくということになったとしても、

覚悟の決め方としてはどちらかを選択して進む方が良いのではと思います。

もちろん、

「自分が主催する楽しいサークルを作る」ことが目的であれば、

この限りではありません。

「多少の持ち出しはしょうがない」という覚悟さえあれば、

そのことがあなたの人生を豊かにしてくれるかもしれません。

収益を考えなくても良いのであれば、教室運営は楽しいものです。

 

さて、作品を売って生計を立てるとなると、そのための計画が必要です。

細かいことはまたの機会に書きたいと思いますが、

大事なことは大きな数字を想定して、小さな数字を確定する作業です。

簡単に言えば、一ヶ月の収入が30万円必要だとします。

30万円を生み出すには、

 ・300円のモノを1000個作る

 ・3,000円のモノを100個作る

 ・30,000円のモノを10個作る

 ・300,000円のモノを1個作る

の、どれかを目指すことになります。

3,000円のモノといっても、それを他の人に売ってもらう場合は、

手取り3,000円にはなりませんので、また少しややこしくなります。

 

とにかく売上金額と販売個数はトレードオフの関係にあるので、

その方向性をしっかり考える必要があるのですね。

また、作品の価格とそれを作る手間は一般的に正比例します。

手間がかかったものは、高い値付けになるものです。

ですので買いやすいものをたくさん作るのか、

高価な一点ものを目指すのかで悩むことになるのですね。

 

私は後者を選んで、とても苦労しました。

この辺りもいつか書きたいと思います。

 

雇われアーティストとなって一番変わったのは、

数を揃える必要が出てきたことです。

数というのはもちろん商品数です。

ハンドメイドである限り、あまり手がかからないものであっても、

制作数に自ずと限界があります。

根をつめて作り続ければ、作品の仕上がりにも影響してきます。

 

当初はチェーン店の本店だけで販売していたのですが、

すぐに全店投入となりました。

店頭では最低ロットがありますので、

20店舗で販売するとなると、ざっくり単品で200個が必要になるわけです。

複数アイテムを同時に投入するのが基本ですから、

全店投入となると相当の数が必要となります。

 

1人の人間が寝ずに作っても追いつく数ではありませんので、

この時点で制作は外部に委託することになりました。

中国です。

 

中国で手作りしてもらうわけです。

 

私の役割も変わりました。

商品の見本作りですね。

 

実物(商品見本)に仕様書を付けたものを中国に送り、

それに基づいて向こうで作られたものが、

サンプルとして日本に送り返されてくる仕組みです。

外部で作ってもらうためには、作り易くしておく必要がありますので、

当然それを考慮して見本を作ります。

 

ところが、すご〜く簡単な作りなのですが、

送り返されてきたものをみると、呆れるほどの出来です。

現物と仕様書まであるのに、一体どうすればこうなるのかがわかりません。

 

改めて、その箇所を指摘した仕様書を送ります。

 

次に送られてきたものは、指摘した箇所は直っているのですが、

ファーストサンプルの時には問題なかった箇所が勝手に変更されています。

 

また、それを指摘して送ります。

「これを作ってね」と送れば「はいよ」といって出来上がるわけではないのですね。

 

信じがたい話ですが、これを3~4回繰り返します。

 

中国の工場でサンプルを作ってくれる人は、

その工場で一番腕の立つ人です。

技術がないのかやる気がないのかさっぱりわからないのですが、

それでも「まあ、これでいいか」としたモノが送られてきた時点で、

ようやく決済をします。

 

最初の発注の総数は8,000個くらいだったでしょうか。

コンテナーを埋め尽くした商品が工房に着いた時の感動は忘れられません。

大きなダンボール箱で100個以上あったでしょうか。

ダンボールの中には厚紙の箱に入った商品がぎっしり詰め込まれています。

 

サプライズはその後でした。

 

高揚感が覚めない中で、その箱から商品を出してみて我が目を疑いました。

それは修正を繰り返して最後にたどり着いた、

最終サンプルと同じもののはずですが、

一周回って最初のファーストサンプルよりひどい商品だったのです。

普通の検品とは箱の潰れや商品数の確認ですが、

それどころの話ではありません。

 

結局、そのうちの5,000個位を手直した記憶があります。

クラフトをやってる方ならご理解いただけると思いますが、

「ゼロから作った方が早いかも」という作業でした。

 

後でわかったことですが、

工場では『GO』が出た時点で、一斉に作り始めます。

問題は、一番腕が立つと思われる人のレベルがさっき書いた通りなので、

他の人のレベルは「推して知るべし」ということだったのです。

 

ハンドメイドとは、本来ワン・ハンドメイドなのですね。

企業人作家になって、最初に学んだことです。

 

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長くなりましたが、

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ハンドメイド作家を目指す人の参考になればと思い、この記事を書きました。

 

実際に、作家を目指す人を応援するブログはいろいろありますが、

とても丁寧に記事を作っている方を勝手にご紹介したいと思います。

私はペンチしか使えませんが、その使い方の説明など

私よりよっぽどわかりやすいです。

それでは、また。