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思いつくこと、思い出すこと、思いあぐねていること。それから時どきワイヤーワーク。

将棋世界 その2(LL)

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将棋ネタで記事を書いてみたところ、

以外にも多くの方に読んでいただき、

正直、驚いています。

 

将棋人口レジャー白書で見てみると、

2017年の参加人口は530万人。

ところが2018年には700万人です!

なんと、一年で170万人増ですね。

 

理由は最高齢プロであった加藤一二三九段が引退し、

その最後の相手となった藤井聡太四段(現七段)が、

その後、歴代新記録となる29連勝を記録。

神武以来(じんむこのかた)と言われた天才加藤が、

平成の天才藤井君にバトンを渡すという巡り合わせは絵になります。

勝ち続ける藤井君を連日カメラが追いかけ回し、

お昼に何を食べたかまで話題になったのは記憶に新しいですね。

そんな背景もあって、

地味な将棋ネタでも読んで貰えたのでしょうか。

とにかく将棋好きとしては、嬉しい限り。

なので、今回も将棋ネタです。

 

実は、この直前まで将棋界は相当マズイ状況にあったのです。

発端は、ある棋士Aの告発でした。

内容は「棋士Bが、対局中に将棋ソフトを使っている」というものでした。

プロの対局は決着が着くまでに何時間もかかります。

トイレに何度も立つのは当たり前。

棋士Aいわく、

棋士Bはトイレの時間が異常に長く、

 将棋ソフトを使って現況を分析している」

というもので、事実であれば勿論いけないことです。

ちなみに両人とも将棋界を代表する実力者です。

 

しかし、そもそもプロたるものが、

将棋ソフトに教えを請うなんてことがあるのでしょうか?

ニュースになった時、

私にはこの告発がとても不思議に思えたのですが、

結局、棋士Bは日本将棋連盟から重いペナルティーを課せられたのです。

 

ところが話はここで終わらず、

「不正はしていない」という棋士Bの訴えにより、

三者委員会が調査に乗り出すことになります。

結果は、何と日本将棋連盟の裁定をひっくり返し、

晴れて棋士Bは汚名を晴らすこととなりました。

これにより、時の将棋連盟会長は責任を取り辞任することとなります。

ちょうど一年前のことです。

連盟の面子は丸つぶれでした。

 

それに追い打ちをかけるように、

現役の名人が将棋ソフトに敗れるという、

ショッキングな出来事が続きます。

若手棋士と将棋ソフトの戦いは将棋ファンにとっては人気の企画でしたが、

よもや名人(将棋界の最高位)が敗れることはないだろうと思われていました。

なのに、負けてしまった。

囲碁は少し前に同じ状況になったのですが、

将棋はさらに複雑な要素を持っているので、

ソフトがプロの頂点にいる人たちに勝てるのは、

まだまだ先だと思われていたのです。

 

ところが将棋ソフトは驚くべきスピードで進化していました。

ソフトを開発している人の棋力(将棋の実力)は、

マチュアの有段クラスです。

プロ棋士とは雲泥の差があるはずなのですが・・・。

一体どうなっているのでょうか。

 

とにかくこのことはプロ棋士アイデンティティーを脅かす、

日本将棋連盟にとっては頭の痛くなる結果であったはずです。

そこに現れたのが、藤井四段なのです。

その偉業にチャレンジする姿にスポットが当たり始めたことで、

その圧倒的な眩しさの前に、くすぶっていたモヤモヤも

何となくまあ良いかと、どこかに行ってしまったようでした。

藤井君の活躍を一番喜んでいたのは、

他でもなく将棋連盟だったに違いありません。

救世主といっても良いでしょう。

今考えても、

これ以上のタイミングは考えられないというところで、

ニューヒーロが登場したのですから。

 

今はどこの将棋教室も大盛況だと聞きます。

まさかこんな時代が来るとは全く予想できませんでした。

よく比較される将棋と囲碁ですが、

将棋のイメージは「縁台将棋」「賭け将棋」から来るように、

庶民的で賭け事の匂いもチラチラ。

かたや「旦那囲碁」と言われるように、

囲碁は殿様やお坊さんが打つ高尚な趣味という差。

私が夢中になっていたのは20年以上も前のことですが、

プロの将棋指しを目指す子供達も、

またそれを応援する大人たちも、

相当限られていたような気がします。

 

今はどうでしょう。

トップ棋士の年収が1億円を超えるようになり、

職業としての「棋士」は社会的な認知度も高まりました。

全国の才能ある子供たちが、

プロを目指して切磋琢磨しています。

随分と変わったものです。


ところで、私は子供達に将棋を教えようと思っていたことがあります。

薬局をしていた頃の話ですが、将棋教室の看板まで用意しました。

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これは友達に作ってもらったのですが、ご丁寧に両面仕上げ。

文字は彫ってあります。

写真画面(上)ではちょっと見にくいかもしれませんが、

右のほうに黒のマジックで詰将棋が書いてあります。

これは地元のホテルで行われた、あるタイトル戦を見に行ったときに、

大盤解説をしていた中村修八段(当時)にサインをお願いしたところ、

快く書いてくださったのでした。

結局、教室を開くまでには至らなかったのですが、

今となっては懐かしい思い出です。

 

暮れも詰まってきて、

今年一番楽しかったことは何だっただろうかと考えていました。

最初に思い浮かんだのが、春先にした同級生との将棋。

若い頃には随分指したけど、

最後に指してから多分20年くらいは経っているはず。

時々会って「そのうちやろうぜ!」って言い合いながら20年。

そのうちなんて言ってたら、死んじゃう年になってきたので、

本当に久しぶりにやってみたら、最高に楽しかった。

将棋ソフトがお利口になったことで、上達の方法が増えました。

遠くの将棋教室に通わず一人でも勉強できるのだから、

良いことに違いないのですが、

将棋の楽しみは勝ち負けだけではありません。

手強いソフトを相手に苦労して買った時の嬉しさはよく分かりますが、

それが記憶に残ることはほとんどありません。

ヘボな将棋であっても、たとえそれが「やられっぱなし」だったとしても、

その相手が気の合う友達だったら、その日のことは記憶に残るのです。

それを味わうことができるのも、将棋の素晴らしさです。

将棋は勝ち負けを決するゲームですが、

人と向き合ってこその醍醐味は、ソフトでは味わえません。

 

ちょうど一年前、

将棋界が直面していた未曾有の危機とも言える状況を、

一人の青年棋士が救ったというのは紛れもない事実です。

プロがソフトに勝ちきれない時代になった以上、

プロはその技量の卓越性のみではなく、

人としての魅力をぜひ磨いて欲しいなと、

ファンの一人として願うばかりです。

(もちろん、魅力とは聖人君子たれとか、

 品行方正であれということではありません。念のため)

 

まとまらない話になってしまいましたが、

将棋の面白さをちょっとでも伝えることができたら良いなと思い、

少し長い記事となりました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

メリー・クリスマス

 

それでは、また。