言葉のチカラ(M)
40代の後半で、経営していた薬局を閉めた。
そこに至る詳しい経緯は、
まるで出来の悪い三文小説のようだったけど、
今更それを書く気にはならない。
とにかく、一生それで食べていけると思っていたので、
実際に閉店することを決意した前後は、
心身共に相当参っていた。
運転資金は厳しくなるばかりで少しも好転しなかったし、
閉めた後に何をして食べていくのかも決めかねていた。
新たな商売に踏み出すプランやアイデアもなく、
肝心な資産もほとんど残っていなかったので、
まさに先が見えない日々を送っていた。
当然、仲間の集まりにもほとんど顔を出さなくなっていた。
そんな頃、後輩の結婚式に呼ばれた。
一回り以上も若い彼はいわゆる遊び友達で、
バンドの仲間でもあった。
遊ぶお金に困ったことがない甘ちゃんが、
いい年をして身動きが取れなくなり、
もがいている姿はまったくみっともない。
仲間に会うのがなんだか恥ずかしくて、
返事を出しそびれていたけれど、
祝ってあげたかったし、
さすがに不義理はできなかった。
当日は、式が始まるギリギリに会場に入った。
自分が置かれている状況は、
仲間のほとんどが知っていたはずだけど、
誰もそのことに触れたりはしない・・・
そう思っていたところで、
ある先輩が声をかけてきた。
先輩とは社会人ラグビーのチームで、
10年以上も共にロックをやって、
バンドも一緒だった。
明るくて、頭が良くて、
一緒にはちゃめちゃに遊んでいるのに、
きちんとした生活設計も持っている、
そんな先輩だった。
先輩は、いつものニコニコ顔でこう言った。
「お前はもう少しできると思ってたんだけどな」
この言葉にどんな意味を持たせたかったのかは、
正直わからない。
その日の状況を考えてみても、
たぶん思いついたことを、
そのまま言っただけなのだろうと思う。
普通に考えれば、
「おまえ、ダメじゃん」って意味だ。
本当は、そう思って言ったのかもしれない。
不思議なのは、
その言葉を聞いて
ひどい自己嫌悪に陥っていた自分が、
「自分をそんなふうに認めてくれていたんだ」と、
全く逆に受け止めたということ。
その後、今に至るまで、
私はどうやら苦労の神様に好かれ続けている。
大概のことには驚かなくなってきたけれど、
それでも苦しくなることもある。
そんな時、決まってこの言葉を思い出す。
この言葉が自分にチカラを与えてくれるのだ。
「お前はもう少しできると思ってたんだけどな」