東京まで77.7マイル

思いつくこと、思い出すこと、思いあぐねていること。それから時どきワイヤーワーク。

貫くということ(L)

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私が中学生の頃は、映画と言えば西部劇が全盛の時代でした。

西部劇に付き物なのは、銃と馬です。

現代ではオートマチックタイプが主流かもしれませんが、

西部劇で使われていた銃は回転式拳銃と言われるもので、

一般的にはリボルバーと呼ばれています。

決闘シーンには欠かせない道具ですね。

ロシアンルーレットに使われるのも、このタイプです。

 

当時、男の子の間ではモデルガンが流行っていて、

あるとき同級生の家で、自慢のコレクションを見せてもらいました。

彼はリボルバー派で、ガンベルトも相当立派なものを持っていました。

夜な夜な西部劇に出てくる早撃ちの練習をしているようで、

腕前も中々だったように記憶しています。

 

それから20年ぐらい経ってからのことです。

 

私も30を半ば超えていました。

自宅から30分程のところにある「伊香保グリーン牧場」へ、

子供たちを遊ばせに行ったときの事です。

そこは広大な敷地の中でいろいろな楽しみ方ができる、

地元でも人気のアウトドアスポットでした。

 

エスタンショーをやっているというので行ってみると、

街並みを再現した通りの反対側が観客席になっていて、

すでに多くの家族連れがショーの開始を待っていました。

入り口に近いところに座ると、その相向かいは2階建ての建物で、

そこから通りの端まで、バーや床屋さんやお店が続いています。

全長は40メートルぐらいあったでしょうか。

中々凝った作りで、まるで映画のセットのようでした。

 

内容は、平和な町にやってきた悪者を、

勇敢な保安官がやっつけるというものです。

いよいよラストシーン近くになってきました。

追い詰められた悪者が2階建てのベランダ付近で、

保安官に討ち取られ、そのまま地面に落ちたところで、

「めでたし、めでたし」となりました。

拍手喝采です。

 

ところで、目の前の建物なのでよく見えたのですが、

やられた悪者はなんだか見覚えのある顔です。

気になったので、ショーが終了した後に裏手に回ってみると、

彼に会うことができました。

20年ぶりだというのに、彼はほとんど変わっていませんでした。

ショーの役割はローテーションで、

次は保安官の役だからとニコニコ教えてくれました。

 

その後何年かして、

風の便りで彼が本当の牧場で仕事をしていることを聞きました。

 

エスタンショーを見てからさらに15年くらい経って、

東京で受ける研修のため、独り新幹線に乗っていた時の事です。

正面からテンガロンハットにウエスタンシャツの男が、

靴音をならして近づいてきました。

足元は年季の入ったウエスタンブーツです。

新幹線でテンガロンハットをかぶっている人はあまり見かけませんが、

目を合わせたくないタイプのようにも見えなかったので、

なんとなく視線を向けると、彼でした。

エスタンショー以来です。

隣が空いていたので横に座ってもらったのですが、

思わず聞いた私の問いに、彼はこう答えました。

 

「今、何してるの?」

「ガンマン」

 

40過ぎのおっさんが「今、何してるの?」と言うのは、

一般的に「仕事は何してるの」と同意義だと思うのですが、

彼は胸を張って「ガンマン」と答えたのです。

さすがにガンベルトはしていませんでしたが・・・。

それにしても相手が「ガンマン」なので、

その後、何を話したのか記憶があまりないのですが、

程なく東京駅に着き、「またね」と別れました。

 

研修から戻って、気になっていたことを調べて見ました。

なんと、

彼はその世界では「知らぬ者はない」というほどの人になっていました。

モデルガンの早撃ち競技では、永らく無敵と書いてありました。

日本一ということです。

 

職業、ガンマン。

 

「人生に夢があるのではなく、夢が人生をつくる」

こんな生き方もあるのですね。

 

それでは、また。