東京まで77.7マイル

思いつくこと、思い出すこと、思いあぐねていること。それから時どきワイヤーワーク。

パイオニアのプリメインアンプ(LL)

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3月27日のニュースで、

イオニアが「東証1部上場廃止」になったことを知った。

熱心なパイオニア・ファンと言うわけではないけれど、

その凋落を象徴するニュースに接し、

なんとも寂しい気がした。

 

音楽にのめり込んでいた10代最後の頃、

もっといい音で音楽を聴きたいと思い、

最初に手に入れたのが、

イオニアの「SA-9800」という

プリメインアンプだった。

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40年たった今でも型番まで覚えているのだから、

相当な思い入れがあったのだろうと思う。

何より、自分で購入した初めての高額商品だったし、

その後の何年間かは相当聞き込んだので、

よけいに記憶に残っているのかもしれない。

 

当時、私は東中野のアパートに住んでいたのだが、

ステレオは実家に置いたままだったので、

アパートでレコードを聞くことが出来なかった。

 *ラジカセはあったような気もするけど・・・。

そのころの私は筋金入りのロック少年を気取っていたので、

予備校生だというのに全然勉強もせず、

あちこちのロック喫茶に足しげく通っていた。

どの店も店内の音量は相当なもので、

少し居るだけで耳が痛くなるようだった。

隣の人と会話が出来るような店は皆無で、

どこも恐ろしいほどの大音量が売りだったのだ。

お金を払ってわざわざ難聴になるために

通っているようなものだったけど、

不思議とそれに慣れると、

今度は小さな音量では楽しめなくなるものだった。

 

凄まじい音量を支えるアンプ類は、

外国製が多かったような気がする。

マッキントッシュラックスマンマランツ・・・、

どれも独特な存在感があり、美しかった。

なので、いつか自分も同じようなものを欲しいと思っていた。

 

ちょうどその頃、母親から

「スーツでも買いなさい」と10万円をもらった。

成人式に着て行くものを、ということだったけど、

成人式に行く気はさらさらなかったので、

そのお金で先ずはアンプを買うことにした。

アパートでいつでも好きなだけレコードを聞くために。

 

ここで少し説明をすると、

レコードを聞くためにはそのための装置が必要である。

当時それは一般的にステレオと呼ばれていて、

レコードプレーヤー、アンプ、チューナー、

スピーカーなどがセットになっているものだった。

今風に言えば、オールイン・ワン商品である。

さらに、もっといい音で楽しもうとすると、

それぞれをバラで組む(買う)ことになり、

コンポーネント・ステレオと呼ばれていた。

アンプ、レコードプレーヤー、カートリッジ、

カセットデッキ、チューナー、スピーカー等々を、

バラバラで買って、1つのシステムにするのだ。

 

最初に断っておくと、オーディオの世界というのは、

物凄く趣味性が高く、追求したらキリがない。

私はただの音楽好きで、オーディオマニアではない。

なのでこれから書くことも

オーディオマニアにしてみれば、

なんということのない話である。

 

話が横道に逸れてしまったけど、

とにかくその10万円を握りしめ、

ドキドキしながら秋葉原に行ったのだった。

 

生まれて初めて行った秋葉原は、

田舎者にとって異空間だった。

現代のようなメガ量販店はまだ無く、

小さな店がゴチャゴチャと連なっていて、

まるでアメ横のようだった。

どこも店の外まで商品が溢れ出していて、

どこまでが店の敷地なのかもはっきりしない。

買う気満々で行ったのになんだか圧倒されて、

中々店にすら入れなかった。

 

なんとなくぷらぷらしていて、

ふとある店の店先で足が止まった。

例によって店の外まで商品が張り出していたのだが、

それが全てアンプとスピーカーである。

20種類近くもあるアンプの一群の両サイドに、

同じく20種類くらいのスピーカーがレイアウトされていて、

客引きよろしく1人の店員さんがその前に立っていた。

目線を向けると直ぐに声がかかった。

「なに探してるの?」

「アンプです」

「決まってるの?」

「はい、ヤマハの◯◯です」

「なに聞いてるの?」

「ロックです」

 テンポが良いというか、接客販売のプロだ。

「あっそう。◯◯もいいけど、ロックならこれもいいよ」

と言った後、アンプ本体のスイッチではなく、

あるボードに配されたボタンを数カ所押した。

途端に両サイドのスピーカーから、

重低音のロックが鳴り出した。

それは、ボードに配されていたボタンにより、

アンプとスピーカーの組み合わせを自在に変えて、

実際の音を聞かせてくれるシステムであった。

そんな仕組みは見るのも初めてだったし、

「こりゃあすごい」と一変に引き込まれてしまった。

その後、自分が買おうとしていたアンプでも、

同じように音出しをしてくれたけど、

最初に勧めてくれたものの方が自分の好みだった。

 

秋葉原に来る前の数週間、

集めたカタログをどれだけ眺めていたか・・・。

スペックなどの意味もわからずに、

ただただ比べて胸をふくらませ、迷いに迷い、

ようやく「これを買おう!」と決めたはずだった。

それが、一瞬にしてというか一音で、

候補にもなかったアンプに惚れてしまったのだ。

定価は11万、それを値引きしてもらい、

9万円くらいを払って電車に乗った。

 

ちなみに、途中で説明した通り、

アンプだけでは何もできない。

その後、プレーヤー、カートリッジ、ヘッドフォンを買い足し、

ようやくレコードが聞けるようになるのだが、

それはアンプを買ってから半年くらい経ってからだった。

 

実は、アンプを買ってからしばらくして、

それが型古だったことを知った。

なんと、新しいのが出たばかりだったのだ。

店にとっては処分したいモデルだったのだろう。

私はどうやら「カモネギ」だったに違いないが、

それでもSA-9800を買ったことに、

少しも後悔は生まれなかった。

 

久しぶりにその画像を見ると、

秋葉原でのやり取りが、

昨日のことのように思い出される…。